公開買付けの対象となる会社の株価が決定される要因

公開買付けの対象となる会社の株価が決定される要因は幾つか存在する。

原則

(1) まず,公開買付け価格がある。(a)友好的な公開付けなどで,(b)対価が現金であり,(c)最終契約が締結された公開買付けが成立する可能性が高い場合,株価は公開買付け価格から金利を除いた額となる。実際は,(d)公開買付けが成立しない可能性(例えば,友好的な公開買付けにしても独占禁止法上の承認や市場動向(2008年から2009年の金融危機が典型例である)等で取引が行われなくなる可能性は存在する)を考慮して,そのリスクが価格に織り込まれる(市場価格が減少する要因となる)。

友好的な公開買付け

(1a)「友好的な公開買付け」という限定は,敵対的な場合では成立しない可能性が高い場合には株価が公開買付価格以下になり,敵対的な買収者が更に高い金額を提示する可能性が高い場合には公開買付価格を超えることになる為である。友好的な公開買付けは成功する可能性が高いために公開買付価格に収斂する可能性が高い。

対価が現金である

(1b)「対価が現金である」場合には,公開買付け価格に市場価格が収斂する可能性が高い。

カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBOの例

例として,CCCのMBOにおける現金公開買付けでの株価の動きを挙げる。1月4日に公開買付けが行われ,1月23日まで公開買付けが実施された。公開買付け価格は600円だったが,市場価格が公開買付け価格の600円に釘付けになっている点が明らかである1

CCCの終値推移

対価が株式の場合には二通りの場合が考えられる。

  • (1b-1)例えば合併の場合で対象会社と買収会社の株式を一対一で交換するというような場合,市場が当該公開買付けが成立すると考えるのであれば,市場は当該発表の翌日に市場開いた瞬間に正または負のシナジーを考慮して株価を調整した後,買収対象会社の株価は買収会社の株価に追随することになる。

トランスコスモス=ダブルクリックの例

例として,トランスコスモスによるダブルクリックの買収事案における,公表後翌日から上場廃止までの株価変動を以下に挙げる。翌日からの株価は,交換比率である1:27で,連動していることが分かる。

トランスコスモスとダブルクリックの株価

  • (1b-2)対価が株式ではあるが例えば或る時期(以下,参照期間という)における買収会社の株価を参照価格として1000円分の株式を提供するというようなことが行われることがある。この場合,市場が公開買付けの成立を信じるのであれば,参照期間までは1000円の株価で推移し,参照期間後は当該参照期間により定められる交換比率に従って,買収会社の株価に追随することになる。

— (1b-2a)但し,このような買収対価が設定される場合,交換比率に上限(ceilingまたはcapと呼ばれる)と下限(floor)が設定されることが多い。この場合,参照期間までの間に株価が1000円以下で推移することがある。本邦の具体的な事例としては,2007年のシティグループによる日興コーディアルの買収における,日興コーディアルの株価推移を参照。

最終契約

(1c) 最終契約が締結されるまでは友好的な事案であっても株価は一定とはならない。そもそも,最終契約が締結されるまでは,買収価格がいくらとなるかは不明であり(新聞等によるリークが行われることが多く,この場合にその情報を信じるか否かという別の問題が生じる),一般的に株価は上昇するが,買収提案自体が否定されるような可能性を考慮することもあり,株価は不安定となる。

conditions precedent

(1d) このような承認は業法上の複数の管轄の複数の承認を取る必要があることなどが考えられ,この場合,承認を取る毎に買収が成功する可能性が高くなるために,株価が公開価格に順に収斂するようなことがある。尚,このような場合,買収提案期間(公開買付け期間)が長期間に亘ることになる。これを避けるために,米国では公開買付けから少数株主を排除する合併という方法ではなく,最初から株主総会の承認を取るという方法が検討される。

東京海上=Philadelphia Consolidatedの例

公開買付ではありませんが,株主総会の承認に基づく現金合併の事例における株価の変動を例として示します。東京会場による2008年のPhiladelphia Consolidated(PHLY)の買収時における,PHLYの株価変動は以下の通りです。合併対価は61.50ドルの現金です。

PHLYの株価推移

主なイベントは,2008年10月3日のペンシルベニア州当局の許認可取得,10月23日の株主総会の承認,10月31日のフロリダ州当局の許認可取得,11月21日に金融庁の許認可取得が挙げられます。いずれの時点でも,許認可取得後に株価の上昇が見て取れます。但し,この株価変動の中で2008年10月3日以降に一時的に株価が下落しており,その理由がよくわかりません。

第三者による買収提案を考慮する場合

(2) また,(2a)米国のデラウェア州を設立準拠法とする会社2 第三者による買収提案を考慮する場合,例えば,当初の公開買付者が50ドルで公開買付けを行う場合に,第三者が公開買付に参入してくることを想定して51ドルの株価で推移する。このような状況では50ドルの公開買付け価格が十分だと考えるような投資家は50ドル以上で株式を市場売却する機会を得るため,株式を市場で売却すると考えられる。また,このような状況で第三者による買収提案を想定する投資家はヘッジファンド等の玄人であることが考えられる。このような状況が続く場合,市場における取引高が増え,株主が一般投資家からこのような玄人に移るという副次的な効果が存在する。これは,公開買付けの成功の為に重要となる場合がある。つまり,このような玄人は取引が成立することで利益を得るのであり,公開買付けの応募が見込まれるからである3

敵対的買収

(3) 上記2に類似する場合として,敵対的買収を行う場合が考えられる。例えば,デラウェア州の場合,取締役会や第三者委員会がその責任を果たすために,交渉により買収価格が上昇するという事実が買収手続きの中で組み込まれる事が多い。これはつまり,当初交渉で提示される価格は最終的に提示することができる上限(reservation price)ではなく,交渉によりより高い価格を引き出すことができることを意味する。つまり,

  • (3a)敵対的な公開買付けが公にされた時点ではまだreservation priceに達しておらず,交渉が行われると,それ以上の価格が提示される可能性が高い。このような場合,公開買付け価格以上で市場価格が推移することがある。逆に,

  • (3b)敵対的買収に対象会社が応じないことが予想される場合等では,逆に公開買付け価格を下回る価格で市場価格が推移する。

Airgas社の例

2010年から2011年に掛けて敵対的買収提案が為された,Airgas社に対する公開買付けに関する例を挙げます。主なイベントは,2010年2月4日に60ドルでの買収提案,2010年7月8日に公開買付け価格を63.5ドルに引き上げ,2010年9月7日に公開買付け価格を65.5ドルに引き上げ,2010年12月9日に最善の最終の提案(best and final offer)として70ドルを提示,です。公開買付け価格との比較は以下の通りです。

ARGの株価推移

敵対的買収提案なので,当初の公開買付価格が交渉に引き上げられることを投資家は予期しています。そのため,市場価格は公開価格よりも高い価格で推移している点が見て取れます。

また,裁判の結論について予期していたのか,最終的な70ドルを提示した途端に株価が下落した点が印象的です。これ以上株価が上がる見込みがないと判断して,ポジションを閉じたのでしょう。

実際には

全ての可能性を考慮して,それぞれの事象について起こる確率に起こった場合の価値を乗じた積の総和となる。

  1. 公開買付けの後,全部取得条項付き種類株式を用いて同じく600円で少数株主の締め出しが行われた。グラフでは,上場廃止までの株価が示されているが,600円に漸近してゆくさまが示されているように思われる。また,そうだとすれば,この影響は金利によるものであるように思われる。更に,公開買付け期間中及び少数株主の締め出しに関して,価格が600円を超えることはない。この600円との差額は,取引費用であるように思われる。 []
  2. 所謂Revlon義務についてよく知られているところである。 []
  3. 例えば敵対的買収を合併経由で行う場合には,株主総会での賛成票を得るためにこのように株主構成を玄人に移すという戦略が重要になりうる。 []