株式会社エー・ディー・ワークスによるライツ・オファリング

昨年(2012年)10月から12月に行われた,わが国2件目*1とされる株式会社エー・ディー・ワークスによるライツオファリングと米国証券法に基づく書類提出について,書いてみます。

株式会社エー・ディー・ワークス(以下「ADW」といいます)は,ライツ・オファリングを発表した2012年10月1日におけるプレスリリースで次の通り述べています。

外国居住の株主様につきましては、原則として本新株予約権の売買は可能な一方で、本新株予約権の行使は、以下(※)にございます例外的措置を除き、制限させて頂くこととなります。

外国居住の株主様に対する当該制限については、株主平等の原則に抵触する可能性も含め慎重に検討をいたしましたが、当社と致しましては、(i)外国居住株主様の行使を認めた場合に履行する必要があり得る特定外国の当局に対する登録等の手続きに係るコストが極めて大きな負担となる一方で、(ii)本件においては、仮に外国居住株主様の行使を制限したとしても新株予約権の上場によって流動性が確保されるため、当該株主様の皆様も市場取引を通じて一定の経済的利益の回収を図れることに鑑み、最終的に当該制限は株主平等の原則に違反するものではないと判断いたしました

更に,同日に提出された,有価証券届出書では,次の通り記載されています。

本新株予約権の募集については、日本国以外の法域において登録又は届出を行っておらず、またその予定もない。外国に居住する株主は、本新株予約権の行使に関しそれぞれに適用される証券法その他の外国の法令に基づく規制が課せられないことについて、本新株予約権の行使請求取次の依頼日(ここでは口座管理機関が行使請求に要する事項の通知を行使請求受付場所に行う日とする)の7営業日前までに、当該事項を証する資料を当社に提供し、かつ当該事項を当社が確認した旨の通知を、口座管理機関(機構加入者)から行使請求受付場所に対する行使請求取次に関する通知がなされる日の前営業日までに、当社から当該株主宛に書面にて行った場合を除き、本新株予約権の行使について制限がなされる。

これらから,発行者の立場は,次の通りだと思われます。

  • 新株予約権の募集について,米国の登録および登録免除は,不要。
  • 外国人による新株予約権の行使を制限しているため*2,新株予約権の行使によって生じる株式の募集について,米国の登録および登録免除は,不要。
  • 外国人による新株予約権の売却に関して,米国の登録および登録免除は,不要。

米国連邦証券法に関する限り,この結論は,支持できると思います。

  • 最初の点は,いわゆるノー・セール理論で肯定できます*3
  • 第二の点に関して外国人による新株予約権の行使を制限できるかは,日本法の問題であって,米国法の問題では,ないと思います。行使が制限される場合,米国株主への,株式の勧誘(offer)がないという解釈は,取りうると思います。
  • 第三の点は,日本における流通市場における取引と解すれば,米国法の適用を排除できると思います*4

ADWは,米国証券取引委員会にForm CBを提出していないようです。ADWが2012年6月28日に提出した有価証券報告書の32頁によると外国人の保有比率が4.03%ですから,実質株主の判明調査をやっても10%を超えない可能性は十分にあったと思います。であれば,米国でのForm F–4を用いた証券の登録は,必要なく,Form CBで済んだはずです。手取り金が約5億円*5のところ,米国当局への書類提出は,費用がかかるだけで意味が無いから,新株予約権の行使を制限した方が良いという判断でしょうか。

思いつきで書いているので,あまり自信がありませんが,ご意見をお聞かせ戴ければ幸いです。

*1:日本経済新聞「新興—株主割当増資を実施、ADワークス、国内で2件目」朝刊15頁(2012年10月2日)。

*2:新株予約権の行使を制限しても,市場で売却できるから株主平等の原則に違反するものではない,という立場を取っているようですが,議論があるところだと思います。なお,金融庁・開示制度ワーキング・グループ「金融庁・開示制度ワーキング・グループ法制専門研究会報告~ライツ・オファリングにおける外国証券規制への対応と株主平等原則の関係について~」参照。

*3:米国におけるノー・セール理論を解説した論文は,いくつかありますが,最近の論文として,柳明昌「米国における組織再編成に係る情報開示に関する法理の展開」吉原和志=山本哲生編『関俊彦先生古稀記念変革期の企業法』(商事法務,2011)が挙げられます。他に,神崎克郎ほか『証券取引法』159頁(青林書院,2005)や川口恭弘「組織再編成・集団投資スキーム持分等の開示制度」金融商品取引法研究会編『金融商品取引法制の現代的課題』32頁(日本証券経済研究所,2010)でしょうか。

*4See Morrison v. National Australia Bank, 130 S. Ct. 2869 (2010). 黒沼悦郎「Morrison v. National Australia Bank Ltd., 130 S. Ct. 2869 (2010)—連邦証券取引所法の詐欺防止条項は,国内の取引所に上場された証券の取引,およびそれ以外の証券の国内取引についてのみ適用される」アメリカ法2011–1号270頁(2012),藤林大地「証券取引所法10条(b)項の域外適用の能否および規律対象行為の判断基準」商事1938号45頁(2011),太田洋=宇野伸太郎「米国連邦証券取引所法の域外適用(上)」商事1934号19–26頁(2011),太田洋=宇野伸太郎「米国連邦証券取引所法の域外適用(下)」商事1935号25頁(2011),湯原心一「証券取引所法第10条(b)項の域外適用と外国で取引—Morrison v. National Australia Bank, 130 S. Ct. 2869 (2010)—」比較法学45巻2号231頁(2011),松尾直彦「証券取引法の域外適用—Morrison v. National Australia Bank Ltd., 130 S. Ct. 2869 (2010)」樋口範雄=柿嶋美子=浅香吉幹=岩田太『アメリカ法判例百選』別冊ジュリスト213号(有斐閣,2012)。

*5:日本経済新聞「エー・ディー・ワークス、株主割当増資5億円調達」朝刊17頁(2012年12月21日)。