ナッジの法政策への利用

法学者によって行動経済学について書かれた論文として,尾崎安央「『行動経済学に基づく法と経済学』と会社法制—公開型株式会社における株主像を検討するにあたって—」尾崎安央=川島いづみ編『石山卓磨先生上村達男先生還暦記念論文集比較企業法の現在—その理論と課題』241頁(成文堂 ,2011)があります。その中で,Richard H. Thaler & Cass R. Sunstein, Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness (update ed. 2009)1 が言及されています2

ナッジ(nudge)とは,「選択の自由を保障しつつも,人々の厚生を進める方向に社会制度の設計をすべきであり,また『道』を誤りがちな人間に厚生を促進するような方向で選択肢を選択し…,それを制度の初期設定(default) として「誘導(nudge)」すべきであると」3 です。実生活でもナッジはよく見かけます。ダイエットに励む人が見える場所に甘い食べ物を置かないことは,ナッジの一類型ですし,煙草が吸いたくなくなるようなパッケージもナッジといえるでしょう。そして,煙草が吸いたくなくなるようなパッケージを法律で強制する場合に,それは法政策として,ナッジを推進していることになります。

Harvard大学のSunstein教授(サンスティーン教授の日本語でのWikipediaでの説明)は,Obama政権において2009年から2012年まで情報・規制問題室長(Administrator of the White House Office of Information and Regulatory Affairs)でした。

そのSunstein教授がtwitterで次のようなことを呟いています。

この呟きは,2009 Credit Card Accountability Responsibility and Disclosure (CARD) Actの影響を分析した論文を参照しています。同論文は,同法による消費者の支払い手数料の減少額が200億ドルに達していると推計しています。興味深いのは,Sunstein教授の呟きにおいて,「実際に効果を持つナッジ(Nudge that work)」と呟いているところです4

法制度での強制というのは,強力な手段なので慎重に行う必要があるとは思いますが,意識的に政策に取り入れることが有効である分野も多くある気がします。最近の論文としては,University of Chicago Law Reviewに載った論文があります。

* Lauren E. Willis, When Nudges Fail: Slippery Defaults, 80 U. Chi. L. Rev. 1115 (2013)

2014年2月3日追記: 関連する論文として,森田果「(取引)法ルールの影響メカニズムの諸相」黒沼悦郎=藤田友敬編『江頭憲治郎先生還暦記念企業法の理論(下)』187–210頁(商事法務,2007)を挙げておきます。

  1. 邦訳は,リチャード・セイラー=キャス・サンスティーン(遠藤真美訳)『実践行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択』(日経BP社,2009) []
  2. 尾崎安央「『行動経済学に基づく法と経済学』と会社法制—公開型株式会社における株主像を検討するにあたって—」尾崎安央=川島いづみ編『石山卓磨先生上村達男先生還暦記念論文集比較企業法の現在—その理論と課題』241頁,260頁注22(成文堂 ,2011)(引用省略)。 []
  3. 尾崎・前掲・260頁注22。 []
  4. Sunstein教授が言及するナッジが,同法のすべての影響額を指して言えるのかは良く分かりません。 []

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