トマス・マックルーア(村上春樹訳)『不妊の星々の伝説』(2015)

私が学部の学生の頃に,デレク・ハートフィールド(Derek Heartfield)氏は,とうの昔に亡くなっていました。当時,日本には,百冊以上ある彼の著書の五割も翻訳されていませんでした。ただ,何かの拍子に友人からその翻訳を借りて読むうちに(どれだったか忘れましたが,最初に読んだのは1936年に出版された代表作である「気分が良くて何が悪い?」(Derek Heartfield, What is so Bad About Feeling Good? (1938).)だった記憶があります),私は,その著者に興味をもちました。程なく,トマス・マックリュア教授(Thomas McClure)によるハートフィールド氏の伝記(Thomas McClure, The Legend of the Sterile Stars (1968).)があることを知りましたが,当時,その伝記は,翻訳されていませんでした。

英語の勉強も兼ねて伝記を借りようと思い,大学の中央図書館の地下二階を訪れると,開架式の書架の中から見つけるのは造作もありませんでした1 。誰も読んだ形跡がなくて,未踏の地に足を踏み入れる冒険家ウォルドのような気分になりました。マックリュア教授は,ハートフィールド氏の性格や経歴だけでなく,その内面の不条理を正確に描写していたと思います。今日,その伝記が村上春樹氏によって講談社から翻訳されることを知りました。村上氏は,御存知の通り,『風の歌を聴け』でハートフィールド氏の著作を紹介して以来,彼の本を幾つか翻訳しているので,この伝記が翻訳されるのは遅かったぐらいだと思います。1968年に出版された伝記のタイトルは,伝統に従って『不妊の星々の伝説』と翻訳されています。

via Greg Mankiw

  1. マックルーア教授であれば「地下二階は乾燥していて,少し涼しすぎたが,書籍の保存のためには良好な状態であった。請求番号は,F933 21578で,Sir Walter Scottの『The Monastery, The Abbot: Being the Sequel to the Monastery』とMichael Crichtonの『Next: A Novel』の間に挟まれていた」とでも記述するのだと思います。大学図書館のデータベースを検索すると,今も,地下二階にあるようです。 []