ショート・スクイーズ

 法律時評の執筆を依頼されました。テーマは、Gamestop株価の乱高下についてです。紙幅の関係で掲載できなかった部分をこちらに載せておきます。続きは、法律時報2021年5月号を御覧ください。


 GME株式の株価の上昇は、ショート・スクイーズ(空売りの締め上げ)を目的としている。そこで、本件の背景を説明するために、ごく簡単に、GME株式に対するショート・スクイーズを説明する。

 まず、GME社は、二期連続の赤字であり、株式市場全体が上昇基調であるという要因を除けば、株価が上昇する余地は乏しかった(GMEの開示資料もリスクとして指摘しているが、ゲームをオンラインでダウンロード購入することが一般的になれば、ゲームの小売業の売上を圧迫する要因となる)。しかし、GMEの株価は、2020年7月28日に3.94ドル(終値)となった後、2020年12月31日には、18.84ドル(終値)まで回復した。ここに目をつけたのが、Melvin CapitalCitron Researchといったヘッジファンドであり、GME株式を大量に空売りした。

 空売り(ショート)は、株式の保有者(貸し手)から投資家(借り手=空売りを行う投資家)が株式を借り入れた上で、市場で当該株式を売却し(売却時点をt=0とする)、その後、株式市場で同じ銘柄の株式を購入した上で(購入時点をt=1とする)、貸し手に株式を返却するものである。通常の株式の現物取引は、株式を購入してから、売却するまでに株価が上昇すれば利益を得るものである。しかし、空売りの場合、時点t=0からt=1にかけて、株価が下落することによって利益を得ることに注目されたい。

 前述の通り、2021年1月時点で、ヘッジファンドは、大量のGME株式を空売りしていたのだが、その規模はどの程度だったのだろうか。S3 Partnersという市場調査会社によると、同年1月28日時点でのGME株式の空売りは、約7188万株であった。ショート・スクイーズとの関係では、空売りの規模が、浮動株の何割を占めるかが重要である。浮動株とは、取引所での取引対象となりうる株式である。開示資料によれば、GMEの発行済株式総数は、約 6975万株であるが、一部は、役員などが保有し、証券取引所では取引されない。このような株式を除いた浮動株と比較して、空売りの規模は、約140%と報道されていた1

 空売りをした投資家は、いつかは株式を購入しなければならない。借りた株をいつかは返却しなければならないからである。この点に目をつけたのが、米国のレディット(Reddit)というソーシャル・ニュース・サイトの中で、ウォール・ストリート・ベッツ(r/wallstreetbets)(以下、「WSB」という。)というカテゴリ(subreddit)に参加していた投資家である。一部の投資家の呼びかけに応じて、多くの投資家(以下、「R投資家」という。)がGME株式を購入し、株価を吊り上げることに成功した。

 本件との関係では、特に、ロビンフッドという証券会社と同社が開発する同名の携帯電話アプリが言及されることが多い。ロビンフッドの顧客は、同アプリから、手数料無料で、株式取引やオプション取引が可能である。また、ロビンフッドは、端株の取引が可能であり、これにより零細な投資家が少額取引を行うことを可能としている。一部のR投資家は、同社のアプリを利用して、株式取引やオプション取引を行っていたようである。

 R投資家が株式を購入し、保有し続けると、浮動株は、減少することになる。需給の関係では、株価が上昇しやすくなるといえよう。そして、株価が上昇し続けると、GME株式を空売りしていた投資家(以下、「S投資家」という。)は、損失を被ることになる。S投資家は、株式を買い戻すまでは、損失が確定しないが、GMEの株価は、2021年1月20日に39ドルだったものが、翌21日に43ドル(前取引日比+10%)、翌22日に65ドル(同+51%)、同月25日に76ドル(同+18%)、翌26日に147ドル(同+93%)、翌27日に347ドル(同+134%)と上昇し続けた。

 2021年1月14日の39.91ドル(終値)の時点で、空売りは、6000万株を超えていたため、347ドルとなった時点で、S投資家の(潜在的な)損失は、180億ドルを超える水準(= (347-39.91) * 60,000,000)ということになる。あまりの(潜在的な)損失に耐えかねて、S投資家が損失を確定させようとすると、何が起きるだろうか。S投資家は、(浮動株が減少し株価が上昇しやすくなった)市場で株式を購入するため、株価がさらに上昇するのである。これによってS投資家が搾り取られるため、ショート・スクイーズという。前述のCitron Researchは、空売りした額と同額の損失を蒙り2 、また、Melvin Capitalは、運用資産の53%を失った3

 2021月1月28日は、本件において幾つかの注目すべき出来事が起きた日であった。第1に、S3 Partnersによれば、一部のS投資家が、ポジションを解消した。これにより、取引時間中に株価は、483ドルを記録した。第2に、ロビンフッド及び幾つかのブローカーがGME株式を含む複数の株式の購入を制限した(保有するGME株式の売却は可能であった)。この措置が直接の原因であったか因果関係の立証は難しいが、GME株価は、急落し、112.25ドルの安値を記録した後、約193ドルで取引を終了した。

 その後、ロビンフッドが取引制限を一部で緩和し、最終的には、取引制限を撤廃したが、株価は、概ね下落し、2021年2月18日には終値で約40ドルまで下落した。

 少し長くなってしまったが、本件の大まかな事実の紹介は以上とし、これ以外の点については、以下の検討において随時補足するものとする。


 そういえば、ロビンフッドという携帯電話アプリは、あのシャーウッドの森のロビンフッドを想起させるわけですが、今回のGMEの乱高下にどれだけ寄与したものでしょうか。ロビンフッドのアプリを用いて取引した投資家たちは、ロビンフッドの手下になって、ノッティングハムの長官に対して反抗したつもりだったのでしょうか(ロビンフッド自身は、自らの会社をシャーウッドの森と呼ぶことがあるようです)。ちなみに、今回の騒動で、ロビンフッド・ソサイエティのtwitterのフォロワーが増加したことをBBCが報じています。

  1. Jonathan Ponciano, Meme Stock Saga Officially Over? GameStop Short Interest Plunged 70% Amid $20 Billion Loss, Forbes Online, Feb 11, 2021 (浮動株を超える水準の空売りがなされたのは過去10年間で15回との指摘) []
  2. Matt Phillips, 4 Things to Know About the GameStop Insanity, N.Y. Times Online, Jan. 30, 2021. []
  3. Juliet Chung, GameStop-Hit Fund Lost 53% in January, Wall St. J., Feb. 1, 2021, at A1. []

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