この判例は、いつか検討したいです。『アメリカ法』から依頼が来るでしょうか。
〔2021年11月22日追記〕
昨年の判例評釈の対象は、法定で口頭弁論をしていたので新しい口頭弁論の形式(リモートでの口頭弁論)は初めて聞きました。
- 第1に印象に残ったのは、トマス裁判官が質問しているという点でしょうか。証券訴訟で発言が聞けるのは興味深いです。裁判官が自分の時間がなくなったといって質疑を打ち切ることが多いのが印象的です。時間が一時間で終わらなくなっている点は、仕方ないのでしょうか。合衆国の代理人への質疑が10分で終わらなくなっています。
- 第2に、Shanmugam氏の口頭弁論を聞くのは初めてではないのですが(前回は、Williams & Connollyのパートナーだったように思います)、模範的な口頭弁論という印象を改めて持ちました。判例の紹介を執筆する側からしてみても、受け答えが明晰で大変ありがたいです。
- 第3に、QP1やQP2という用語が使われているのですが、これは最近の現象でしょうか。そもそも、これが何の略なのかもわかりません。questions presentedでしょうか。
〔2021年10月19日追記〕
期待通り(?)、アメリカ法から判例紹介の依頼が来ました。私が、アメリカ法、比較法学及び成蹊法学に執筆した紹介・評釈は、次の通りです。
- Morrison v. National Australia Bank, 130 S. Ct. 2869 (2010)
- Janus Capital Group, Inc. v. First Derivative Traders, 131 S. Ct. 2296 (2011)
- Amgen Inc. v. Connecticut Retirement Plans and Trust Funds, 133 S. Ct. 1184 (2013)
- Halliburton Co. v. Erica P. John Fund, Inc., 134 S. Ct. 2398 (2014)
- Omnicare, Inc. v. Laborers District Council Construction Industry Pension Fund, 135 S. Ct. 1318 (2015)
- Salman v. United States, 137 S. Ct. 420 (2016)
- Cyan, Inc. v. Beaver County Employees Retirement Fund, 138 S. Ct. 1061 (2018)
- Lorenzo v. Securities & Exchange Commission, 139 S. Ct. 1094 (2019)
- Liu v. Securities & Exchange Commission, 140 S. Ct. 1936 (2020)
- Goldman Sachs Group Inc. v. Arkansas Teacher Retirement System, 141 S. Ct. 1952 (2021) ←New!
研究会報告では、以下の2つの判決も行いました。
- Matrixx Initiatives, Inc. v. Siracusano, 131 S. Ct. 1309 (2011)
- Erica P. John Fund, Inc. v. Halliburton Co., 131 S. Ct. 2179 (2011)
いつも楽しみに読ませてもらっております。感想を述べさせていただきます。
リモートになってから着任順で発言割当てがありましたから、トマスの発言が聞けるのは結構ですよね。なんせ以前は口頭弁論で発言しただけで「トマス判事、10年ぶりに発言」と話題になる人物だったので。失礼ながらリモートの音声だとなかなか聞きづらい音程の声ですねえ。
証券訴訟の口頭弁論といえば、著名なところではDavid Boise(証券訴訟以外の方が知られていると思いますが)とかDavid C. Frederickなんかが、なかなか巧みだなと思っております。
QPですが、これを見る限り
https://www.supremecourt.gov/qp/20-00222qp.pdf
question presentedのことだと理解してよいかと思います。
QP2は証拠提出だけでなく説得責任まであるかという話で、
Argument Transcriptsの24頁では規則301に言及しながらQP2と言っておりますし、
33頁もQP以上の話をすることを戒めているように思われます。
ところで32-33頁の話はなかなか面白くて、この機会にHalliburtonとAmgenを整理して適切な基準を設定もらおうとしてますよね。
それに対して判事が「いやQPではそう言ってないでしょ」と(弁護士によると裁判所はそれでも裁量権があるからそういうことは出来ることのようですが)。
確かにQP1は表示がgeneric natureである場合の話が中心で、
QP2は先ほどのような話ですから、この機会に先例を整理して(あるいは実質的に変更して?)
何か新しい基準を設定するということが大変大がかりな仕事になるのと比べると大きな違いがあります。
判事達は今やりたくないでしょうね。
口頭弁論で皆が口にしているAllstate判決がなかなか面白いと思うのですが、先生のご感想をいただければ幸いです。
感想ありがとうございました。QPがquestion presentedの略だとして、今までもこの用語は使われていたのかが気になります。私が知らなかっただけなのか、それとも最近の用語法なのでしょうか。
Allstateは、Barrett裁判官が参加していたのでGoldman Sachs事件で言及がいくつかありましたが、個人的にはそんなに強い印象はありませんでした。控訴裁判所判決を読んでみましたが、保守派であるBarrett裁判官ががこの判決に賛同しているのが意外です。規範的な問題は措くとすれば、price inflation theoryは支持できます。966 F.3d at 613での市場下落を重視する考え方は、コメントが難しいです。取得時差額が理論的正当性が高いと思うものの、実務的にも日本の判例法理的にも、Allstate判決の見解は、受け容れやすいでしょう。
なお、Allstateは、クラスが認定されたようです( https://static.reuters.com/resources/media/editorial/20201221/12212020allstate.pdf )。今後の動向も楽しみです。
湯原
ありがとうございます。勉強になります。
事実審の裁判官にとってはAllstateは分かりやすいのかなと思ったところです。
QPについてですが、現在のような形のものは連邦最高裁のサイトを検索すると2005年のものが出てきます。
https://www.supremecourt.gov/qp/04-00607qp.pdf
おそらくRules of the Supreme Court of the United Statesの14条( Content of a Petition for a Writ of Certiorari)(a)の冒頭部分が関連しているのだと思います。
“The questions presented for review, “・・・という書き出しです。
ただし皆が特に説明することもなくQPQPと言っているのが最近の事なのかどうかは分かりません。
Madison v. Alabama, 139 S. Ct. 718, 203 L. Ed. 2d 103 (2019)などでも規則14への言及があります(特に反対意見冒頭)。
手続関係はよく知らないのですが、
https://babel.hathitrust.org で調べると、
20世紀初頭はどうも今とだいぶ違うようですが、1970年当時の規則23(c)にも
“The questions presented for review, ”
と現在と同じような表現があります。
ただ、繰り返しになりますが、QPという略語が流布していたのかは不明です。
大変失礼いたしました。
確かに、おっしゃるとおり、Allstateは、それまでの裁判例をよく纏めているように思います。学説やGoldman Sachs事件の最高裁判決との関係を加えれば金融法学会の海外金融法の動向[アメリカ]の記事になるのではないかと思い始めました。そんな記事に需要があるかは別問題ですが。