コーポレート・ファイナンス

 ファイナンスの良書を(個人的な経験に基づいて)紹介します。筆者が浅学非才であるという制約がありますし、遺漏があるかもしれませんが、コメント欄でご教示いただければ幸いです。

 まずは、ソニー時代に読んだ書籍として、ツヴィ・ボディ=ロバート・C.マートン=デーヴィッド・L・クリートン(大前恵一朗訳)『現代ファイナンス論—意思決定のための理論と実践〔原著第2版〕』(ピアソン桐原,2011)を挙げます。独学でも理解できるくらい丁寧に説明されているという印象です。ただ、難易度は高くないですし、時間がない場合には、次の書籍から読み始めても良いように思えます。ただ、私は、この書籍のおかげで、次のステップに進むことができました。英語版は、Zvi Bodie et al., Financial Economics (2d ed. 2008)です。

 次に読んだのは、リチャード・A・ブリーリーほか(藤井眞理子=國枝繁樹訳)『コーポレート・ファイナンス〔第10版〕上』(日経BP、2014)及びリチャード・A・ブリーリーほか(藤井眞理子=國枝繁樹訳)『コーポレート・ファイナンス〔第10版〕下』(日経BP、2014)です。ソニーの財務部時代に読みました。当時は、第6版だったと思います。少なくとも、上巻は、独学でも十分に理解できる内容でした。理解しやすいので、読み進めることも難しくないように思います。博士後期課程にいた頃は、最新版ということで英語版を確認していました。Richard Brealey et al., Principles of Corporate Finance (13th ed. 2019)です。

 ニューヨーク大学の大学院でファイナンスの講義を受けた際の指定教科書は、Stephen Ross et al., Corporate Finance (12th ed. 2018)でした。当時は、第7版だったと思います。説明が明確で、Brealey Myersよりも、説明されている話題が多く、ファイナンスが良く理解できたと感じました。日本語版は、スティーブン・A・ロスほか(大野薫訳)『コーポレートファイナンスの原理』(きんざい,第9版,2012)になります。新版に対応してほしいと願うのですが、なかなか実現していません。少し古いのですが、基本的な理解には十分であるように思えます。

 日本では、ブリーリー先生の教科書が特に人気を集めているように思えます。ロス先生の教科書は、翻訳の出版ペースが遅いのが仇になっているのかもしれません。ただ、この2つが長い間、定番の教科書だったということに多くの方が同意すると思います。

 この2冊の教科書に割って入っているのが、Jonathan Berk & Peter DeMarzo, Corporate Finance (Global 5th ed. 2019)であるように思えます。日本語版は、ジョナサン・バーク=ピーター・ディマーゾ(久保田敬一ほか訳)『コーポレートファイナンス入門編〔第2版〕』(丸善出版、2014)及びジョナサン・バーク=ピーター・ディマーゾ(久保田敬一ほか訳)『コーポレートファイナンス応用編〔第2版〕』(丸善出版、2014)があります。

 以上が、ファイナンスの教科書です。どれを選択してもファイナンスの基礎は十分理解できるようになるでしょう。補遺として、幾つかの書籍を紹介します。

 最初に、William A. Klein, John C. Coffee, Jr. & Frank Partnoy, Business Organization and Finance: Legal and Economic Principles (11th ed. 2010)です。Allen教授が自らが執筆したケースブックに加えて、副読本として指定していました。最初にこの書籍を読んだときには、とても感動したと記憶しているのですが、最近、手にしてみると特に感動はありませんでした。版が変わったからでしょうか。

 証券投資寄りのファイナンスの入門書として、俊野雅司ほか『ファイナンス論・入門』(有斐閣コンパクト、2020)が挙げられます。著者からご恵与頂いたのですが、広い分野のファイナンスをコンパクトに纏めているという点で優れているように思います。

 Burton G. Malkiel, A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing (12th ed. 2019)は、留学中に受けた講義の副読本でした。対応するバートン・マルキール(井手正介訳)『ウォール街のランダム・ウォーカー〔原著第12版〕株式投資の不滅の真理』(日経BP、2019)が出版されています。これに加えて、リチャード・セイラー(篠原勝訳)『セイラー教授の行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2007)を読むのが良いと思います。英語版は、Richard H. Thaler, The Winner’s Curse: Paradoxes and Anomalies of Economic Life (1992)です。初めて読んだ時に衝撃を受けました。

 他にも思いついたものがあれば、随時追記していくことにします。

William T. Allen (1948–2019)

 Allen教授は、1985年にデラウェア州の衡平法裁判所の大法官(Chancellor)に任命され、以後、12年の任期中に多数の有名な判決を執筆されました。2006年にニューヨーク大学のLL.M.プログラムに入学した際には、会社法プログラムのディレクターでした。

 Intercoは、Allen教授が大法官として執筆されたものの中で(その後最高裁判所に否定されているにもかかわらず)私のお気に入りの判決です。ニューヨーク大学在学中のlunchonセミナーの講演者が「デラウェア州最高裁判所がAllen裁判官の判決を覆したとしても、Allen裁判官がいつも正しい」というようなこといったのが印象に残っています。Allen裁判官のお話は、時に深淵で難しく、その真意を理解することが難しいことがありましたが、Interco判決の素晴らしさを含めて、今思い出して漸く意味が分かることも多いです。

 ニューヨーク大学でのKahan教授とAllen教授の演習では、Kahan教授に一歩も引かずに議論をされていました。スーツが良く似合い、多弁で、Blackberryを腰に下げていて、多忙な実務家を体現していました。演習の中のAllen先生の言葉で印象的なのは、会社法学で重要なのは、エージェンシー理論と情報の非対称性だと仰っていたことです。私が、エージェンシー理論と情報の非対称性にこだわるのは、この影響が強いように思います。

 私にとって、Allen教授は、とてもチャーミングな方で、いかめしそうな大法官という役職とは無縁な方でした。演習で、Lucian Arye Bebchuk, The Case Against Board Veto in Corporate Takeovers, 69 U. Chi. L. Rev. 973 (2002)を報告した際に、同論文の中に出てきたAllen大法官の「Human nature may incline even one acting in subjective good faith to rationalize as right that which is merely personally beneficial」という一文を紹介したのですが、Allen先生は、鼻のしたをこすり、また、胸を張って誇らしげでした。そのコミカルなリアクションのおかげで報告の場がなごみました。また、卒業式のセレモニーで、会社法専攻の学生は、Allen教授に名前を呼ばれるのですが、演習に参加していた私の名前を呼ぶ際に、ウインクしてくれたことを覚えています。卒業後は、ニューヨーク大学のLL.M.を受験する学生を推薦するメールを送るくらいしか関係がありませんでしたが、いつも丁寧なメールを返してくれました。教職についたあとは、そのことを祝福し、「Congratulations This is a wonderful job as you know!」というメッセージを送ってくださいました。

 実務と学問のバランスに配慮し、規範的な議論や法政策に基づく議論をすることが重要であることを教えてくれましたし、今後もAllen教授に学ぶことは多いように思います。ご冥福をお祈りいたします。

via WLRK, Delaware Business Now, Delaware Judiciary, Chancery Daily, Professor Bainbridge, John C. Coffee Jr., Ronald J. Gilson, Jack B. Jacobs, Theodore N. Mirvis and Paul K. Rowe, Leo E. Strine Jr.,

四半期開示の廃止について

証券クラス・アクションに関するシンポジウム

ニューヨーク大学で行われた証券クラス・アクションに関するシンポジウムのビデオです。

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Shareholder Rights Projectについての議論

Harvard大学のShareholder Rights Projectは,期差選任の上場会社を減少させるという成果を短期間で挙げたため,注目される存在だと思います。同プロジェクトの活動の合法性について疑義を表する論文が,スタンフォード大学の教授および現役の連邦証券取引委員会の委員から呈されました。

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原告の敗訴者負担を定める付属定款(fee-shifting bylaws)

Davis Polkのブログの記事が興味深いので,以下の通り引用します。

24 companies have adopted fee-shifting bylaws since May, according to Professor John Coffee in his testimony before the SEC Investor Advisory Committee. … Professor Coffee criticizes fee-shifting bylaws for being generally one-sided, reimbursing successful defendants but not successful plaintiffs, unlike the English Rule.

It appears that the SEC has not weighed in on fee-shifting bylaws so far. As described in this Reuters blog, at least two IPOs with fee-shifting provisions have been completed. There has been criticisms not only about the substance of those provisions, but also the disclosure surrounding their existence.

via Davis Polk, Alison Frankel, J. Robert Brown, Jr., John C. Coffee, Jr.

Section 13(d)の改革提案(2)

先ほど紹介したGilson教授およびGordon教授によるSection 13(d)の改革提案へのコメントについて,Coffee教授もコメントしています。

Coffee教授は開示の強化に賛成の立場を取っているようです。

And I will raise their bid, by invoking two other familiar maxims: First, power corrupts, and absolute power is at least within view for institutional investors. Second, sunlight is the best disinfectant, electricity the best policeman. … If there are new problems accompanying this shift (as I would contend), the safest, least intrusive reform is disclosure, not direct governmental intervention.

… Their essay announces that institutional investors have power and prefer to act through proactive hedge funds. Frankly, it is hard to call this breaking news, as it has been true for more than a decade. …

To return to the higher level on which they wish to conduct this debate, Professor Gilson and Gordon are predicting the future, identifying proactive hedge funds as the good guys'' and managements as thebad guys.” They may be correct, but they are likely overgeneralizing. Virtue is not all on one side. … Transparency, as implemented through mandatory disclosure, plays the same protective role in our securities markets, …

via The CLS Blue Sky Blog

Coffee教授による2012年の証券訴訟

Professor Coffee writes:

Given this decline in both filings and settlements, how will private enforcers survive? One answer is that they are moving into related fields. A few (most notably, Grant & Eisenhofer) are specializing in representing opt outs. Others are pursing LIBOR cases, which may not involve any securities law claims. Many smaller firms seem to be specializing in “M&A” class actions in state court.

Why then is the “M&A” field so overpopulated with 5.4 lawsuits for every deal in 2012? The answer probably lies in the fact that the smaller law firm does not need a large institutional client in order to become class counsel in M&A cases. Institutional lead plaintiffs are the ticket of admission for securities class actions in federal court, but not in state court.

If we look not to the aggregate amounts recovered, but to the median and average settlement size, we find that the median settlement in securities class actions rose from \$5.9 million in 2011 to \$10.2 million in 2012―a significant 70% increase.[ix] … From this perspective, the deterrent threat may be growing (but this ignores that the likelihood of a suit has declined, as the number of filings has fallen significantly).

The SEC has become significantly more active in three categories: (1) insider trading cases …; (2) Ponzi schemes …; and (3) financial services misrepresentations and misappropriations ….

via The CLS Blue Sky Blog